ステンシルアーティスト・守矢努と笠間の陶芸作家・菊地亨による −陶芸とステンシルの七不思議−

2022年を迎えて初のHAUS STUDIO での展示は、ステンシルアーティスト・守矢努さんと陶芸作家・菊地亨さんによるコラボレーション。

澄んだ空気の中でひときわ存在感を放つ作品たちには、よく見ると文字や模様が描かれている。内容は、日本の神話だそう。

そう聞いてどういうことだろう、と頭の中で色々な想像を巡らせてみるだけでも楽しいが、今回は特別に守矢さんと菊地さんにお話しを伺うことができた。

コラボのきっかけは…

お二人を繋いだのは、JINNAN HOUSEブランディングディレクターの福田春美さん。2021年某日、守矢さんが表紙をステンシルで手がけたこともある雑誌relax※1の回顧展を3人で見に行った際の「二人で一緒に何かやったらいいんじゃない?」という彼女の一言から本企画は始まったのだ。そこからあっという間に構想が形になっていった。

※1relax:マガジンハウスより1996年から2006年9月号まで発行された日本の雑誌。独自の目線でカルチャーやミュージック、ファッションなどを取り上げ、伝説的なカルチャー誌として評価された。

北の国からとサンドリ

お二人の共同製作は、茨城県笠間市にある菊地さんのアトリエにて行われていた。
驚くことにアトリエも、併設されたご自宅も、資材を集めて菊地さん自らの手で建ててしまったというのだ。つい「北の国から」※2で田中邦衛さん演じる黒板五郎が自ら建てた家に想いを馳せてしまった。
本棚には北野武さんなどの著書が並んでいて、菊地さんの嗜好がうかがえる。

▲製作中の菊地亨さん(左)と守矢努さん(右)
▲菊池さん宅の外観

菊地さんは以前から守矢さんへの憧れがあり、今回一緒に製作できて嬉しい、と語る。
忌憚なく意見を交わすことができ、日々雑談も交えながら楽しんで進められたという。雑談の内容は現代美術からサンドリ※3まで及んでとても盛り上がり、守矢さんの帰りはいつも終電ギリギリ…。

そんな守矢さんのルーツは長野県諏訪市。人類学や民俗学の視点も取り入れ、目に見えない霊性が昨今の作風には宿されている。今回の企画にも縄文時代へのオマージュが込められている。

作品の表面にステンシルプリントで施された文字は、諏訪市に古来より伝わる「諏訪の七不思議」を英訳したもの。守矢さん曰く、日本語だと意味が直接的すぎるので、論文的な英語表現にされている。客観性を持たせることで、神話を図形や絵柄を用いて伝承していた縄文土器にも通ずるところがあるのだ。作品を見る側としても、ひと呼吸おいてメッセージを受け入れることができ、あれこれ想像が膨らむ。

※2北の国から:フジテレビ系で放送された倉本聰脚本のテレビドラマシリーズ。北海道富良野市を中心に、雄大な自然の中で田中邦衛が演じる主人公・黒板五郎と2人の子どもの成長を1981〜2002年の21年間にわたって描いた。ドラマスペシャルは常時視聴率20%超えを記録した。

※3サンドリ:「有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER」の略。JFN系列で放送されている有吉弘行がパーソナリティのラジオ番組。有吉と月替わりアシスタントとのフリートークや、リスナーからのメール紹介を中心に進行される。ゲストがふかわりょうの回は神回のひとつ。


完成形が分からない!?

普段は平面作品が多い守矢さん。菊地さんの作陶とのコラボを通して、焼き上がりまで完成形が分からない、自分の力ではどうにもならないということを体感し、表現に対する意識が研ぎ澄まされたという。

▲素焼きの状態で釉薬を用いてステンシルプリントを施す
 
▲焼き上がりに更にアクリルとペンキでペイントをする

一方、菊地さんの作風は、人々の生活に寄り添って使われるためのお皿やお椀など、いわば商品と呼ばれるもの。しかし、今回は守矢さんとの合作ということで商品ではなく、見事作品に昇華させた。

普段自分の商品を目にしないお客さん、とりわけ守矢さんのファンの方々が感動してくれたのが印象深かった、と菊地さんは話してくれた。

壊されることが前提に

会場の壁一面に並んだプレートには圧倒された方も多いのでは?
個性ある一点一点を流れに身を任せて並べたのだそう。作品に導かれたのかもしれない。このプレートは、お客さんが好みのものを指名して、その場で持ち帰れるという仕組みだったので、日に日にディスプレイの全体像が変わっていくさまが非常に興味深かった。

期間中には作品のひとつを割るというインスタレーションも行った。縄文土器は呪術の儀式に用いられ、壊されることが前提にあったといわれている。破壊は死からの再生を祈る感謝のメッセージだったのではないか、と守矢さん。
もちろん砕けた破片も作品として展示された。

見ていると、どの作品もどこか生きて、蠢いているように感じ取れる。このエネルギーは既定概念に囚われないお二人の溢れるそれそのものなのではないだろうか。

「諏訪の七不思議」や日本の神話の内容については、また次の機会に掘り下げたい。

展示終了後も作品は購入可能!

陶芸とステンシル。
普段交わることのない分野が合わさることで起こる化学反応を目の当たりにすることができた。お二人の今後のさらなる活躍がとても楽しみだ。

展示作品の一部はこちらからご購入いただけます。
陶芸とステンシルの不思議な魅力をぜひお手元で感じてみてください。

Seven Wonders of Pottery Stencil
ステンシルアーティスト・守矢努 × 陶芸作家・菊池亨によるコラボ企画。2022年1月11日(火)~18日(火) JINNAN HOUSE内HAUS STUDIOにて開催された。

守矢努 Tsutomu Moriya
1969年生まれのステンシルアーティスト。桑沢デザイン研究所卒業後、アートディレクター/デザイナーを経て、近年はアーティストとして活動を広げている。自身のルーツ、縄文、人類学、民俗学などの視点を取り入れた作品を製作している。

菊地亨 Toru Kikuchi
陶芸作家。1974年茨城県笠間生まれ。デザイン学校を卒業後、茨城県工業技術センター窯業指導所で陶芸を学ぶ。[茶空 SAKUU]の定食に使っている皿や、JINNAN HOUSEのオンラインストアで販売中の商品も製作。

Photo & Video by Taro Oota
Interview & Text by Hikaru Yamaguchi

ステンシルアーティスト・守矢努と笠間の陶芸作家・菊地亨による −陶芸とステンシルの七不思議−